設計監理でメシを食っている建築士事務所にとって、長い長い極寒の時代が続いています。
唯でさえ建築工事が減少している中、住宅の殆どはハウスメーカーが関与し、オフィスやマンションはと言えば、激安の報酬が提示され、これを飲まなきゃ仕事にならない。飲んだとしても構造や設備などの外注費も出てこない。設備設計を業者さんに頼んだら、予想以上に高い見積が入り、その業者さんが受注できない。じゃぁ、書いてもらった設備図面も使えない・・・?
仕事は少ないし、あったらあったでこれまでとは比較にならない安い報酬で、これまでと同じ業務を要求される。しかも、それでもと頑張った仕事に対して思わぬところからクレームがつき、挙句の果ては設計ミスや監理ミスだと訴えられる、或いは監理報酬が貰えない。
こんな事態を受けて、事務所を閉鎖したり、或いは名義だけは残存しているものの、実態としては休業状態と言う事務所も珍しくはありません。
兎に角生きてさえ居ればなんとかなるさと、ひたすら頑張りつづけることにも限りがあります。スタッフをやめさせて外注にし、事務所規模を縮小し、自分の給与を下げ、飲み会は減らしゴルフを止め・・・。
経費削減は重要です。真剣に取り組みましょう。でもその傍らで、ちょっと違った護身術も考えてみようと思いました。
この文章は、筆者がかねてから実行している事、実行しつつあること、そして実行しなければならない課題としていることを、自戒の念を込めて語るものです。中には、単一の事務所ではいかんともしがたい事柄も含まれています。共感を抱いてくださる方々、チームを組んで事に当たりませんか。
ちなみに筆者は住宅設計を主体に設計監理する、所謂『意匠屋』で、顧客は全て『イチゲンサン』です。
設計監理報酬が・・・安い!―@報酬に具体的妥当性を
ただ単にダンピングすることは、もぅやめましょう。
ひとつのプロジェクトに設計事務所が数社名乗りをあげたとしたら、仕事を獲得するためには多少の値引はやむを得ません。が、常識の範囲を超えて低い報酬しか貰えない場合、そのことを合理的に説明出来ますか? 設計したくて仕方が無い、設計できるのなら報酬は二の次と、まるでマスターベイションに夢中の若者の様に対応していては、あまりに情けないですよねぇ。
告示1206号はさておいても、例えばかつては500万程度の報酬が見込めた仕事なのに、今は300万程度しかもらえない。それなら、それに応じた仕事の内容を考えなきゃいけません。500万のつもりが450万なら、業務内容とは無関係に、単なる『値引』で対応してもいいでしょう。しかし、300万なら、『ここ』までしか出来ないという『ここ』を明らかにしないと、タマッタモンじゃありません。でも実態はと言えば、「こんなに安い設計料で、これだけやってるんだから感謝してもらわないと」とか「この監理料じゃそんなに現場に行ってられない」と、自分勝手に業務内容を決めている。『ここ』までですよって、クライアントに納得させていないから、時としてクライアントからクレームが付きます。曰く「この先生は、ちっとも現場に来てくれない」とか「うちの設計図面って、ちょっと少なすぎる!」とか。
もっとナイーブで太平楽な事務所は、設計報酬が大幅に減額されているにも関わらず、これまでと変わらず十二分な設計図書を整備してしまう。或いはロクな監理報酬も支払われないのに、キチンと貰えるのと同じ責任を課されてしまう。否、自ら責任を負ってしまう。これはもぅ、マゾですよ。
『ここ』について、その報酬で何が出来て何が出来ないのか、クライアントにキッチリ伝えなければなりません。そしてそのことを、受注前から明確にし、報酬見積に記載し、委託契約書にも明記して、何度も何度もクライアントに確認しておくことが大切です。
【業務としてサービスできる内容を具体的項目に】
設計監理業務を消費者に説明することは極めて困難です。とりわけ、『ここ』を明確にすることを念頭において我々の業務を説明し、それぞれに報酬を対応させることは至難の業です。が、それでも各事務所に応じた形で分類し、説明し、どの業務を依頼して、どの業務については依頼しないかを、消費者が選択できるようにしない限り、
「タダ働き」の悲哀すら回避できません。しかし逆説的に云えば、業務内容を具体的に明らかにすることによって、取捨選択の過程を通じて消費者自身も考えるようになり、適切な報酬を導ける糸口が期待できるかもしれません。
告示やNF書式は、建築士事務所の業務を多少具体化しています。しかしこれらは結果主義であって、設計業務については成果図書で、監理業務については施工図検討や現場の検査などに主眼が置かれています。オフィスやマンションの場合は、クライアント側に割り切って判断できる体制があるケースが殆どですから、業務の内容を成果で判断できる可能性があります。しかし住宅の場合は、設計図書というカタチになるまでの過程が業務の多くを占める場合もあります。監理については、ソコソコ纏まった規模の現場であったり、或いは一定レベル以上の請負者の場合には適用できても、住宅を請負ってくれる所謂『マチバ』の場合、施工図なんぞとんでもない話で、定例会議すらまともに開催できない、そんな状況での監理は、NF書式や告示とは大きく相違した業務内容にならざるを得ないのです。(もっとも、ソコソコの規模の現場と『マチバ』の現場、どちらが多いかといえば明らかに『マチバ』だし、一定レベル以上と一定レベル以下の請負者、どちらが多いかといえば明らかに『一定レベル以下の請負者』です。だから、住宅の設計監理が、決して『特異』なのではなく、これまで建築家協会や建築士会、事務所協会などで活動してきた方々が、たまたま住宅で食っている事務所ではなかっただけのことなのでしょう。)
これらを考え合わせると、イッチョウ頑張って、住宅及びこれに類する設計監理に注目するカタチで、業務内容を明らかにする必要があります。色々な事務所が、日常的に行なっている業務項目を明らかにし、その中で、各事務所が提供できる業務を選択して、それぞれの項目に対して費用の目安を示す・・・といった作業が必要なのです。そうすれば、各事務所単位では大きな負担をすることなくサービス内容を明らかにすることが可能になります。
【サービスを消費者が選択できるように】
ごく一部の悪質な消費者を除けば、10万円で100万円のサービスを要求することはありません。大切なことは、建築士事務所が提供できるサービスがどのような内容で、それぞれのサービスにはどれ位の費用が必要であり、それを依頼者である消費者が選択できるようにすることです。
特に住宅の場合、充分な設計をしようと思えば、告示並みの報酬を貰ってもいい加減です。ところが零細事務所では、例えば2000万円程度の建築工事費に対して設計監理報酬が数十万にしかならないこともあります。にも関わらず、建築主は、「どんな風になるのか見せて欲しい」とか「言葉で説明されてもわかんない」と、展開図やスケッチパース、果てには各室の室内パースを要求します。鼻歌交じりでチョイチョイと対応できる程度なら問題ないかもしれませんが、これが度重なることもあるので、注意しなければなりません。
特に、『売建』と呼ばれる自由設計の建売住宅を設計する場合は要注意です。事業主や設計者は、設計するのは間取りと屋根形状程度だと双方ともに理解していますが、消費者はそんなこと知りません。「この先生に設計してもらいますよ」などと紹介を受けた日には、「万全の設計をして貰えるんだ」と決めて掛かっています。書面による委託契約をしていようがしていまいがお構い無しです。
仮に50万の報酬だとしたら、我々にとっては「50万しか貰えない」のに、クライアントにとっては「50万もかかる」。そんな場合、例えば住宅金融公庫の融資が受けられることだけを目的として業務を受注しているという内容を明らかにしておかなければ、お互いに不幸になります。
売建でなくとも報酬額が相当に低い場合は、例えば「材木検査はしない」とか「照明器具の選定はご自分で」と言う風に、事細かに取り決めることが有効な場合もあります。そして取り決めた報酬と業務内容に含まれていないことであれば、それをキッチリと告げ、追加業務として合意した後に行なうようにしましょう。
【インフォームドコンセントを考える】
設計説明(インフォームドコンセント)についても同様のことが言えます。
事務所協会が策定したインフォームドコンセントの指針は、これは充分な報酬が支払われる場合に適用される指針であり、告示1206号の半分にも満たない報酬の場合などを全く想定されていない・・・と、私は考えています。設計者は、工事予算を念頭において設計しています。その念頭においている事柄を、事細かに全て説明していたのでは、下手をすれば説明だけで報酬の半分を費やさなければなりません。だって、住宅設計をご依頼くださる方々の中には、空間を全く想像出来ない方もいらっしゃるのですから。
消費者も建築士事務所も、心は相当にすさんでいます。
報酬額が低い場合のインフォームドコンセントは、例えば一般図で表現できる範囲に留めるなどの工夫を講じなければなりません。
次回も引き続き、設計監理報酬の安さから身を守る護身術を考えます。
設計監理報酬が・・・安い!−A設計報酬額の確定を遅らせる
設計は、直接的には設計図書を作成することを最終成果としていますが、そこに至るもろもろの過程も報酬に含まれています。妥当な理由もなく、いくつもの計画案を提供しなければならない場合や、多数の関係者の意見を纏めなければならない場合など、とても常識的な報酬で対応できるものではありません。
そこで考えたいのは、基本計画と設計、そして監理を分離することです。かつての家協会の料率や告示1206号などは、あくまで標準的な場合を想定しているのであって、例えば筆者が経験した『基本計画だけで2年を要した住宅』などは、めちゃくちゃな想定外です。
建築主の中には、いくつかのプランをカタログ的に提示させ、その中から選びたいという潜在的な欲望を持っている人があります。ハウジングメーカーなどは、建物を売ることを商売にしていて、設計を売ることが本旨ではありませんから、安易に、色々なプランを提示します。この様な対応を誰かから聴いたり、或いは経験したことがある建築主は、これが一般的だと思っています。悪気は無いとは思うのですが、しかし、設計を本旨とする建築家には対応できるものではありません。クライアントのニーズを反映させるべく懸命に考えたプランを提示していることを充分説明しましょう。
それでも、いろいろな計画案の提示を余儀なくされることがあります。(そうしないと納得しないクライアントも、確かに居ますよねぇ)。この様なケースの場合、設計報酬の取り決めを基本計画確定まで待つことも方策です。勿論それまで無報酬ではできませんから、なんらかのシステムを作って、『ただ働き』を避ける工夫を考えないと。
先に書いた『基本計画だけで2年を要した住宅』などは、常雇かと思うような状態でした。1番最初に提示した計画案は、最初のヒアリングから2ヶ月程度掛け、模型も作成し、充分に説明して「これで行って下さい」といわれたので、設計監理報酬を取り決め、構造との打ち合わせを開始した途端、「風水的に悪いらしい」の一言で頓挫したのです。それからは、正しく悪夢でした。風水だか四柱推命だか知らないけれど、クライアントがいろいろな先生に相談するものですから、条件がころころ変化して、その都度実施設計の途中で中断を余儀なくされる。設計料を戴かなきゃぁと自分を叱咤激励するものの、精神的には大変しんどい経験でした。結局は、最後の先生(風水に明るいご夫人ではあるが、決してこれで飯を食っている商売人ではなく、普通の主婦)に逢いに東京までお供し、やっちゃいけない事を聴き、計画案がようやくまとまったのです。後から思えば、
@「風水的に悪いらしい」の「らしい」に、もっと注目しておけば良かったと悔やんでい ます。本人が判断せず、聞きかじりの風水でこちらを翻弄していることに気づかなかっ たことは大失態でした。
A二度目の「実施設計中断」の時点で、精算を要求すべきでした。この仕事、住宅として は比較的高額の報酬でしたから、欲が絡んで精算を言い出せなかった事が、二つ目の大 失態です。
B自分では何も判断しない(出来ない・・・かも?)クライアントであることに気づきなが ら、「先生(私のこと)をご信頼していますから」の甘言に惑わされ、そのまんま監理 にまで突入してしまったことが第三の失態。この現場は、当初予定工期10ヶ月に対し、 実際には15ヶ月を要しました。
この例の報酬は、安くはありません。が、結果的には恐ろしく安いものになりました。
多くの場合、最初にクライアントに出会ったとき若しくはその直後くらいに、既に報酬額の目安を提示しています。勿論具体的な金額ではなくて、工事予算の何%と言う風に多少流動的ではありましょうが、それでも当初8%と言っていたものを後から15%とは言いづらいものがあります。
極めて基本的な話ではありますが、当初提示する報酬には、幅を持たせておきましょう。決して金額を特定せず、「一概には言えませんが、10〜12%程度と思っていただいたらどうでしょう」という風に。できれば自社のHPなどで、これを明示しておきます。筆者の場合、HPに8〜15%と表示しています。そうすれば、例えば8%で契約すれば、「一番安い率にして下さってるんですね」と、嫌味かも知れないけれど感謝の言葉が聞けたりします。
設計監理報酬が・・・安い!−B監理業務を分離する
先に述べたように、告示1206号や一般的な報酬料率は標準的な場合を想定しています。しかし、昨今の建築事情は、なかなか標準的にとはいきません。例えば工事を受注した請負者が、設計監理者が想定しているレベルを相当下回る技術力しか持たない場合など、監理期間中の作業量や神経疲労は凄まじいものです。しかし、クライアントにそのことを説明したとしても「先生に監理していただいたら大丈夫なんでしょ?」とか「厳しく監理してくださいね」と軽く云われてしまうのが落ちで、最悪の場合には、「この先生、別の業者と出来ているのでは?」等と、痛くも無い腹を探られかねません。
請負者のレベルが低い場合の監理者の悲惨さは、筆舌に尽くしがたいものがあります。とりわけ住宅の場合、図面を読み取れない業者が現場に乗り込んでくることすらあります。この様な場合は別格としても、請負者の能力によって、監理の業務量が大きく左右されることは確かです。
このような悲惨さから身を守る方策として、当初に設計監理を一貫契約するのではなく、設計と監理を分離して契約する方法があります。分離契約することによって、それでも監理報酬を変更することには無理があるかもしれませんが、委託契約に記載する業務内容を調整することは少なくとも可能です。いざと言うとき、建物の出来栄えが、監理者の業務不良や能力不足によるものではなく、請負者の能力に起因するものであると言うことを、キッチリと示すことが出来るような内容に調整できれば、監理者の不毛の努力は多少なりと軽減できるはずです。
具体的には、請負者の能力が低い場合、通常の場合に増して、書面による指示・連絡などに努め、請負者に対して発行すると同時にクライアントに対しても発行しておきます。これを繰り返すことで、クライアントに、監理者が適切に監理を行なっていることを、しつこくしつこく伝えます。
勿論、請負者の能力の問題から、監理報酬の増額を申し出ることもひとつでしょう。しかし、設計を受注する時点で、監理報酬額も提示しているでしょうから、これが受け入れられる公算は非常に低い。能力の低い請負者が受注する事になった背景には、少なからずクライアント側の事情が作用しているでしょうから、この事によって監理業務が増大することは、誠実に説明すれば理解を得られる可能性はありますが、それなら、監理報酬を増額する代わりに、専門的な知識を要しない項目について、クライアントが自ら監理する方法を提案して、少しでも監理業務量を適正に保つ様にします。例えば構造や耐火性能など安全性に関わることは監理者が監理することが必要ですが、内外装材の選定や色彩計画などクライアントが自力で決定出来る項目は多数あります。
これらは、監理業務の内容を細かにリストアップすれば見えてくる事でしょう。
筆者の例では、木造在来工法住宅で、上棟まではスムーズに進捗したものの、いざ軸組検査してみると、手直し項目がずらっと並ぶ状態で、再検査たるやナント5回行なったのであります。この場合の再検査に要した費用を、クライアントが負担すべきかどうかは判断が分かれるところでしょう。しかし、監理者が一方的に泣くというのもおかしな話です。
これまでは、クライアントの請負者に対する不信感を煽るような事になってはいけないと、士法18条による報告を控えていました。しかしそれによって、監理者に対する不信感が生じたら、元も子もありません。再検査はせいぜい2回に留め、それでも改善が見られない場合はクライアントに報告し、費用を請求するようにしましょう。その費用分、クライアントが請負者から請求するなどの助言を添えて。
設計と監理を分離契約することで、細かい話ですが、貼付する印紙の額も下がりますから、これも美味しい話ではあります。
設計監理報酬が・・・安い!−Cメイルを活用する
クライアントと面談して打合せするのは、計画や設計内容の観念的な説明を主とし、詳細な要望やこれに対する対応については出来るだけメイルを活用します。
最近は、殆どのクライアントがメイルアドレスを持っておられます。持ってはいても滅多に使わないと仰るケースは少なくはありませんが、強引にメイルを送ります。メイルを送信し、その後で、「メイルをお送りしておりますので、ご覧下さい」とFAXします。大変馬鹿げたことの様に思われますが、これを数回繰り返せば、クライアントは定期的にメイルチェックするようになり、こちらからFAXを送るのが遅れたりすると、その前にReが届くようになります。
ヒアリングアイテムとしてメイルを使っておくと、即、打合せ記録になることは勿論ですが、受信BOXに記録が並ぶことで、「こんなに打合せを重ねているんだぁ」って、クライアントが感動してくれます。
考えていることや質問への回答を文章にすることは、時には大変手間ではあります。が、クライアントが抱く疑問は、往々にしてよく似ていますから、Aさんに送った回答を、少し手を加えるだけでBさんへの回答に流用できたりしますから、ある程度繰り返せば、左程の負担ではなくなります。そして「私の思いつきの質問に、こんなに丁寧に答えてくださって感激しました」なぁんて言って貰えたりします。
次回は、設計監理報酬が貰えないという悲惨さから身を守る護身術を考えます。
設計監理報酬が・・・貰えない!−@報酬を細分化する
直接的に効果がある方法は、報酬を細分化することです。
取り決めた報酬を、たとえそれが小額であっても細分化し、業務の進捗に応じたし払い期限を設定します。そして報酬が支払われない場合は爾後の業務を見合わせることも辞さない心構えを持つようにします。
例えば木造住宅の監理報酬の場合、@監理着手時 A基礎配筋検査完了時 B軸組検査完了時 C気密工事検査完了時 D完了検査立会い時 E竣工引渡し時 など、数回に分割します。ここでは「検査完了時」であって、決して「合格時」ではないことに注意してください。先に述べたように、いつまでたっても合格できない現場もありますので。
中規模以上の現場であれば、『毎月いくら』という風に取り決めることも得策です。建築工事は、時として遅れます。その要因にも拠りますが、監理者以外の要素に起因する場合、工事が遅れたからといってその間監理業務が発生していないかと言うと決してそうではありません。定例会議や現場確認など、遅れているといえども間引き出来ないことが殆どです。監理業務は『常傭』的な色彩の濃い業務ですから、工事の特色に応じた委託契約を心がけましょう。
仮に、監理報酬が300万で期間が6ヶ月の場合だと、「¥500,000/月」と併記します。工事が1ヶ月延びたから、その分よこせと、ただちに主張するためではなく、監理という業務がそういう内容だという事をクライアントに認識してもらうためです。
工事の遅れがクライアントに起因する場合、請負者は必ず「現場管理費の増額」を申し出ます。監理者も同じように、増額を申し出ることが出来るベースを作っておきましょう。
設計監理報酬が・・貰えない!−A建築確認副本・完了検査済証は報酬と引き換えに
設計監理者の究極の守りは建築確認副本です。請負者が、請負契約総額の受領と引き換えにしか引き渡し証明や資格証明を交付しないと同様、設計監理者も、建築確認副本を、報酬総額の受領と引き換えにしか渡さないようにします。いうまでもなく、建物の登記の際、通常は建築確認の提示を求められます。登記できなければ、ローン手続きに支障が出ますから、クライアントにとっては大きな影響を受ける事になります。
住宅の場合には、ぎりぎりの予算構成で新築する場合が多く、工事費の支払についても、公的資金やローンが実行されないと支払えないという場合があります。登記して、担保設定の後、融資が実行されるのを待って最終金の支払に当てたいという事です。本来は、繋ぎ融資を受けて支払う事が原則でしょうが、多いに信頼されている設計者としては、あまり冷たい事は言いたくありません。しかしながら、登記作業開始から融資実行までは1〜1.5ヶ月を要し、その間、監理報酬の最終支払を猶予されるのも、マシャクに合いません。自己資金と融資額の実態を正確に把握し、請負者への支払を調整するなどしてでも、確認副本と報酬の最終支払が引換であるという原則を貫ける様に工夫します。
以下は、融資を頼みにしている住宅の、請負代金支払い例です。ここでは、『完成引渡し時』に40%の支払を予定していて、実際には融資の実行を待たないと支払えません。この工事では、たまたま外構工事費の割合が高く、かつ建築主体工事完了から外構工事完了まで、概ね1.5ヶ月を要します。建築工事完了直後に登記手続に入れば『引渡し時』には融資が実行されると予測しました。
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(1)請負契約締結時 |
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5% |
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(2)コンクリート工事完了後2週間 |
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5% |
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(3)木構造軸組検査合格後2週間 |
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30% |
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(4)上記の後1.5ヶ月 |
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10% |
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(5)完成・引き渡し時 |
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40% |
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(6)引き渡し後60日 |
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10% |
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計 |
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100% |
請負者からの引渡し証明は先行して交付してもらいますが、外構工事が完了しなければ、常識的には居住を開始する事は出来ません。工事中ですから、鍵の引渡しも当然行ないません。要するに、実質的な居住を開始するのは、実質的な引渡し以降である事を条件に、請負者への支払を調整し、監理報酬の確保を目論んでいるのです。
但し、法務局での手続は、建築確認の提示が絶対条件ではありません。したがって、この方策は完璧の守りと言うわけではありません。
完了検査済証についても同様に考えます。
去る二月、国土交通省から全国金融機関(全国銀行協会、等)に対し、『今後、民間の金融機関が新築の建築物向け融資を行うにあたって、検査済証の無い新築建物には、融資を控えてくれ』という内容の要請が出ました。いまだ実効率は低い様ではありますが、順次普及していくでしょう。
完了検査済証の受領は、代理者の専任事項です。済証が無ければ銀行融資が実効できないとなれば、設計監理報酬の守りという意味合いからは、朗報ではあります。大いに利用させてもらいましょう。詳細については、以下のアドレスでご覧下さい。
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/07/070224_.html
工事費については融資を受けないというお金持ちの場合、この守りは通用しません。筆者の経験では、一億を超える工事費なのに登記もしないという建築主が居ました。これには、・・・参りました。
設計監理報酬が・・・貰えない!−B見積の為の図面はPDFで
実施設計が完了し、請負候補者の見積段階になっても、クライアントに対して全ての図面を交付するわけではありません。例えば構造図や詳細図などクライアントが見ても判らないような図面は、見せることはあっても交付しないようにします。報酬も支払わずに、その図面を用いて工事着工しようとする、不埒な建築主への防御策です。
同時に、請負候補者に見積もり用として交付する図面は、PDFにしてメイルで送ります。見積もり用図面を有償で交付することも考えられますが、そうすると見積書提出時に返却を要求しにくいキライガあります。また、数社による競争入札の場合、見積用に配布する図面のCOPYだけで、下手をすれば数万になり、馬鹿に出来ない金額です。『見積提出時には、見積資料を返却してください』って、大声で叫んだとしても、実際にゼネコンが何部COPYしたのか判らないわけで、まったく効力はありません。
請負候補者に中には、「PDFってなんですのん?」と反応する場合があります。ゼネコンの営業さんは、往々にしてコンピュータを毛嫌いする場合が多いので、こんな答えが返ってくるのですが、設計積算担当者の殆どは、日常的にコンピュータと向き合っていますから、大多数のゼネコンさんは対応可能です。
PDFは、ありがたいことに、見積には支障なくとも現場用には見づらいものです。まともな請負者であれば、適切なプリントアウトを提供しないと施工できないと判断しますから、少なくとも設計監理者を無視して(設計報酬などを支払わずに)着工するといった事態を回避できる可能性が、おおいにあります。
設計監理報酬が・・・貰えない!−C請負契約に完成保証を
請負者が工事中に倒産したら、クライアントばかりか監理者も大きな打撃を受けます。とりわけその請負者が設計監理者の紹介であった場合など、受ける影響の大きさは計り知れません。勿論法律的には、請負契約上の監理者が問われる責任ではありませんが、設計事務所が紹介した請負者である場合などは、倫理的責任を問われるでしょう。
工事が中断しますから、監理報酬は勿論順当には受領できません。大きな金銭的打撃を被ったクライアントからは、下手をすると、既に受領した報酬の返還を匂わされる可能性もあります。請負者の債権処理にも付き合わされるでしょう。年月を掛けて債権処理が完了したら、新しい請負者の選定から業務を再開しなければならないかもしれません。
倒産しそうな請負者など選定しないようクライアントに助言することは勿論ですが、昨今の経済事情では、これはなかなか困難です。倒産を食い止めることなど出来るはずも無い。そこで、請負契約に工事完成保証を付け、たとえ倒産した場合でも、速やかに工事再開できるよう準備しておきます。かくいう筆者は、過去に2度、請負者の倒産という憂き目に会いました。が、いずれの場合も、工事完成保証をつけていたお陰で、多少の空白はあったものの速やかに工事再開できました。
工事完成保証があれば、工事中の建物が債権者の手に渡る事無く、工事再開が可能です。
ただし工事完成保証人には、請負者と同等以上でかつ同業種である事に注意しましょう。うっかりすると、下請けである工務店が保証人になる場合があるようですが、これでは保証人の役には立ちません。
請負者は、保証人を立てることを嫌がります。「役所の仕事でも、キョウビそんな事言いまへんでぇ」。方法としては、金銭保証の路も無いではありませんが、効果としては、保証人の方が期待できます。
請負契約の段になって、保証人云々で揉めるわけには行きませんから、見積図書を配布する時点で、要求内容を明らかにしておきます。以下は、筆者が用いている『見積要綱』の抜粋ですので、参考にして下さい。
工事完成保証
下記のいずれかを選択し、工事の完成を保証していただきます。
@ 工事完成保証人の記名・押印
保証人の選定については、契約に先立ち、発注者及び監理者の了承を得てください。
尚、請負者決定後、すみやかに、保証人の経歴書を提出していただきます。
A 銀行など金融機関による保証
保証限度額は、「2.工事代金の支払(案)」の(1)から(3)のうち、最高金額+増し 嵩金額を目安とします。契約に先立ち、発注者及び監理者の了承を得てください。
上記選択肢に依り、請負契約書特約条項を付加します。
この連載は、ひとまずこれでENDとします。
筆者は、『もめない様に』『訴えられない様に』をテーマとして、委託契約書式と約款の改正を提案したいと、只今準備中です。近日中に本誌に掲載します。
筆者は、建築相談委員会の委員長をおおせつかっています。裁判所の民事調停委員もお受けしており、個人的には建築問題研究会というNPOで、各種のご相談に応じています。
今回は、これらの相談の中から、建築士事務所業務に関する事柄をご紹介しましょう。
訴えられた!―@建売住宅の監理責任で、取り壊し建替えを請求された事務所の場合
少し以前のことになりますが、A建築士は8軒の建売住宅の設計を受注し100万円の報酬を得ていました。ところがその内の一軒が大きく傾き、事業主と共に訴えられたのです。
件の住宅は、既存RC造L型擁壁の上に、CBを6段増し積みした地盤に建てられていました。ブロックは大きく孕み出し、既存擁壁も隣地側に傾いていました。建物本体の布基礎は数ヶ所で破断し、床は6帖間の両端で3cm傾いています。
住宅の所有者であるBさんは、A建築士とは一面識もありませんが、建築確認上の監理者として、Aさんの監理責任を追求したのです。
A建築士は事業主と共に、擁壁上の盛土について関与していないと主張しました。購入後に、Bさんが庭を広げるために行なったのだというのです。ところが、裁判の本人尋問で、「あなたは監理したのかしていないのか」と問われ、「きっちり監理しました」と答えたのです。公庫の融資つき住宅でしたから、中間検査は厳格に行ない、役所の検査にも立ち会ったというのです。そして、完了検査の際にも、CBの増し積みは無かったのだと。
筆者にしてみれば、8軒で100万円の報酬ですから、年月が経っているとはいえ。建築確認のみの報酬ではないか、検査など行なっているはずが無いと思っていました。しかし、盛土はBさんのやったことだと明言されたので、争いは硬直状態に陥りました。
結果としては、Bさんが勝ちました。ご近所をくまなく尋ね、スナップ写真を見せてもらい、その中に、Bさん宅の工事中の風情が映っているモノが見つかりました。CBが積まれていたのです。
これがきっかけとなって、建物だけでなく既存擁壁をも含めた取り壊し建替の判決が言い渡されました。
筆者としては、今でも、A建築士にそこまでの責任があったのか疑問です。
どういう考えによって、嘘をついてしまったのか判りません。しかし、この本人尋問を傍聴していたときの印象では、A建築士は、「チャンと監理した」という事を言いたかっただけではないかと思いました。完了検査の際に盛土が無かった事を主張したかったのではないと、思うのです。
もし、筆者の受けた印象が正しくて、尋問の際にA建築士が「設計は盛土を想定していない。現場でその様に変更されたかどうかは確認していない。自分は、建築確認を受ける程度の業務しか受注しておらず、実質的な工事監理は行なっていない。」と述べたとしたら、判決はどうなっていたでしょう。
訴えられた!―A木造住宅の監理責任で、取り壊し建替えを請求された事務所の場合
C建築士は、木造住宅の設計監理については相当な経験を持ち、好印象の作品を数多く生み出してきました。Dさんは、阪神大震災で倒壊した自宅の設計監理を、C建築士に依頼しました。
まだ瓦礫の山も消えうせぬ時期でしたので、Cさんがそれまで頼んでいた工務店には、工事を引き受けてくれるところがありません。困り果てたCさんは、ツテを頼って新たな工務店E社を探し出し、Dさんの工事を頼みました。発注者は勿論Dさん本人です。
ところが、このE社が曲者でした。絵に描いたようにいいかげんな工事なのです。最初にこれが発覚したのは、土台伏せのときです。土台が、基礎天端から半分ほどはみ出しているのです。Cさんは慌てました。計測してみると、土台の刻みは正しかったのですが、基礎の位置が間違っていたのです。Cさんはすぐさま補強を指示しました。基礎を幅方向に増しウチし、アンカーボルトも追加するという内容です。
更に建前をすると、胴差の長さが60cmしかなく、しかも継手が水平方向にずれている部分があります。この部分は吹抜けで、胴差が化粧となって現れるのです。C建築士にとって、こんな事は初めてでした。幸い構造的には大きな問題ではなかったので、鉋で調整する様指示しました。
工事が進捗し、外壁の仕舞に掛かる頃、土台端部が大きく割れている事に気づきました。寄りホゾの加工の不手際でしょう。C建築士はこれにもすぐに補強を指示しました。
そうこうしていた或る日、C建築士が現場に赴いても誰も居ません。電話しても応答がありません。結果、しばらく現場が止まってしまいました。発注者のDさんは、C建築士に工事の続行を催促してきますが、C建築士としてはどうにもできず、何とかしなさいと、数回に亘りFAXを送りました。
これまでは毎日のように催促してきたDさんから、しばらく連絡が無いので、どうかしたのだろうかと現場を覗いてみると、現場が動いているではありませんか。C建築士には何も知らされないまま、工事が再開していたのです。E社に問いただすと、これまでに発覚したミスについて、Dさんから叱責され、請負代金からの値引きを要求されていた。これを了承したので、工事を再開する事になったのだと言います。Cさんは、何故自分に知らせが来なかったのだろうと不審には思いましたが、それでも懸命に監理しました。しかし工事再開以降、発注者Dさん・施工者E社・監理者Cさんの関係がよくなる事は無く、竣工を待たずにDさんが入居してしまいました。
そして、入居まもなく、DさんはE社を相手取って取り壊し建替えを求める訴訟を起こしました。ところが、E社には弁済能力が無い事がわかり、C建築士を裁判に巻き込んで、監理責任を問うことにしたのです。
Dさんは(Dさん側の私的鑑定を行なった建築士は)、基礎の墨だしの間違いに気づかなかった事をはじめとして、胴差や土台の刻みミス、果ては工事進行の遅れも含めて、監理者の責任だとなじりました。
C建築士がこの裁判に併合されたのは、E社との裁判が相当進行してからのことで、Cさんは強く拒みましたが裁判所の決定に従わざるを得なくなりました。
判決は、C建築士とE社双方に取り壊し建替えを求める内容でした。E社は、判決額の半額を支払いましたが、とてもそれ以上は支払えません。Dさんは、今度はC建築士を相手取って控訴したのです。
結果としては、高裁で和解しました。金額は、C建築士が契約していた監理報酬の5倍です。C建築士は、建築士賠償責任保険に加入していましたので、或る程度の金額は保険で賄う事が出来ました。しかし、自分に何の連絡も無く工事が再開された時点で、Dさんとの信頼関係が雲散霧消していたことに気づくべきだったと後悔しました。
筆者から見れば、C建築士は、非常に真面目な建築士だと感じました。同時にあまりにもナイーブ過ぎるのではないかとも感じたのです。住宅の現場で、建築主や施工者から裏切られる事など想像だにしていなかったでしょう。自己の守りなど考えようとせず、ただひたすら業務を全うすれば、みんなわかってくれると期待していたのではないでしょうか?
訴えられた!―B設計報酬を貰えなかった協力事務所の場合
コンペに入選し設計を受注したF社は、実施設計をG社に依頼しました。G社はいつものように設計し、成果図書を納品しましたが報酬が貰えないので、F社を訴えました。
G社はF社との取引には数回の実績がありましたが、今回は特別に、CADデータで納品して欲しいといわれていました。これまでは、プリントアウトで納品していたのですが、コンペ主催者がCADデータを要求しているのだそうで、さしたる疑問も抱かず合意しました。
ところが納品後、一般図が不足しているとか、建具配置図が無いなど図面そのものの不足をはじめとして、設計の不備を夥しく指摘されたのです。G社には、指摘内容についてまったく心当たりがありません。が、発注者であるF社が示したプリントアウトには、指摘通り、大きな不備があるのです。双方、狐にだまされているような感覚で、話し合いが持たれました。
この案件、結果としては、CADソフトの相違と、これを補完すべきDXFデータ変換の問題だという事がわかりました。F社・G社共に、コンピュータは日常的に使用してはいるものの、決して明るいというわけではなく、双方が使用しているCADソフトの相違すら確認せぬまま業務を行なっていたのです。
CADソフトが違えば、文字は化けます。文字サイズも確保できません。線種も確保できません。線の太さなどは論外です。ハッチはかろうじて確保される様ですが、マスキングは無理です。JWCADにあるようなレイヤグループも確保できません。日本語のレイヤ名はメチャクチャになります。
また、DXF変換すると、データ量が膨大になります。図面によっては、フロッピーには納まりません。一定限度を超えると、後は削除されてしまいます。
データを遣り取りする場合、使用ソフトに十分に注意しなければ、このような悲喜劇が起こります。そして仮に、双方のソフトを的確に把握できていたとしても、納品時には、プリントアウトを同時提出するくらいの慎重さは持ちたいものです。