実録『或る老人の場合』
    :はじまり編
  (社)大阪建築士事務所協会
機関紙 「まちなみ」より
有限会社フォルム・ディ
代表取締役 河添 佳洋子

これは、ひとりの資産家老人が見舞われた建築騒動の物語で、私が接した事実に、多少脚色を加えたフィクションです。
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1【プロローグ
2【1月7日夜
3【1月9日夜
4【1月16日昼下がり
5【1月19日夜
6【2月10日昼下がり
7【2月15日昼下がり
8【2月17日夜
9【2月18日
10【2月21日夜
11【2月28日
12【2月29日
13【3月1日
14【3月4日夜
15【3月6日
16【3月4日
17【ちょっとだけ後日談
18【おしまいに

【2月21日夜】
その週の土曜日の晩、紳士は「ご子息の医院にお邪魔して参りました」と言った。長男と話し合い、工事費や融資先について充分説明し、納得させたと言う。「あいつが納得しよったんなら、ワシはえぇ。これで行きまひょ」「この調子で、娘のほうもアンジョウしたっとくなはれや」

翌週は結構忙しかった。
紳士が金融公庫に連れて行ってくれた。長男も一緒だった。公庫の後、長男は保証機関の手続もした。随分多くの書類を取り寄せた。実印も何度か押した。
「工事は、いつ頃からかかりまんねん?」と確認すると、「以前から申し上げておりますように、工事に掛かるのは来年です。まだまだ時間がありますよ」 随分先の話だ。今まだ2月だから、これから一年以上、何をするんだろう? 「それは社長、これだけの大工事ですから、手続がいっぱいあるんです。申請も大変なんですよ。」そんなものかと思った。
紳士は、相変わらず毎日来て、他社でマンションを建てたオーナーの悲劇を色々紹介してくれた。その中にはA社の話も出てきた。老人は少し疲れてきた。「なんやかんや言うても、ワシが生きとる間になんとかしといたらんといかん。息子も娘も世間の事を知らへん。ワシの事をあてにしとるんや」

(続く)


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