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【2月29日】
日曜日の早朝、娘に電話した。6時前だったので娘は電話に出ず、留守電にしゃべった。「この家のほうは、予定通りマンションを建てることにした。お前のほうも取り掛かって貰わんとあかん。明日3時に完成予想図を持ってくると言うとるさかい、お前も来て、話聴いといてくれ。」
娘は昼前に来て、憮然としている。友人である不動産会社の部長も来た。
娘はカンカンになって怒った。「お父ちゃん、ゆうべキャンセルて言うたやんか!」 険悪な雰囲気に包まれた。部長が、とりなすように言った。「お父さん、兎に角いっぺん立ち止まって考えはったらどうですか。息子さんも交えて、よぅ話しはらんと。」「色々話合いしはって、やっぱりB社に頼もういう事になったら、いつでも頼めるんですから。」「こんなに慌てんでもえぇんとちゃいますか?」
老人は、一旦キャンセルしようと決心していた気持ちを思い出した。この部長は、以前に旧建築士を連れてきたときとは違い、かなり強硬に反対している。そうかも知れん。
「そうでんな。一旦ストップしまひょか」
そろそろ約束の3時になる。部長は、「僕が逢って言いましょか」と提案したが、老人は「いや、結構です。ワシが言います。」と気丈に答えた。
部長は心配になった。B社に逢えば、また決心が揺らぐだろう。
「キャンセルするという内容証明送らはったらどうですか?」「そうやな、そないしまひょか」 老人は同意した。
部長は、自分の車に戻り、内容証明郵便箋を持って来た。慣れた手つきでサラサラと書き、老人と娘に見せた。『キャンセルするが、要した経費については支払う用意がある』という穏やかな内容だった。老人は頷き、印鑑を押した。「もうじきB社が来まっさかい、あんたさんは帰っとくなはれ。あんたさんに迷惑が掛かったらいかん」部長は、老人の気遣いに感謝し、その足で、郵便局に向かった。
入れ替わりの様に、B社の紳士が来た。老人は言われていた通り、「内容証明を出しましたよってに、それを見とくなはれ」と繰り返した。紳士はあまり食い下がる事も無く引き下がった。「判りました。お送りいただきました書面を拝見させていただきます。」
娘が帰り、妻と二人になると又、老人は考え始めた。「あれでよかったんやろか?」「あの不動産屋は、娘の友達や。信頼できる人間やと思う。会社の清算のときも、随分よぅやってくれた。せやけど・・・」
(続く)
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