|
【1月9日夜】
二日後の1月9日の夜7時頃、紳士が、前と同じ技術者を連れて訪れた。今度も夜分なので、「次からは昼間に来とくなはれ、お茶も出されしまへんさかい」といった。しかし老人は内心「夜まで働くこんな社員が居るから、この会社の株価は高値安定しとるんや」と、大いに満足だった。
技術者が小脇に抱えていたケースから書類を取り出した。この家を賃貸マンションにする計画案がそこにあった。老人は驚いた。「おととい来たばかりなのに、もぅ図面が出来ている。この会社は一所懸命になってくれとるんや」
老人には、計画案の内容も良し悪しも判らない。図面は、しばらく目の前にあったが、老人が見ることは無かった。いや、見はしたが、眺める事しか出来なかった。5階建で、全てワンルームだと言うので「全部マンションやったらワシ等が住むトコおまへんがな。何処に住みまんねん?」と聞いた。紳士は、「失礼しました。考えが至りませんでした。この最上階のワンフロアを社長ご夫妻のお住まいにしましょう」といった。技術者は「すみません。すぐに計画し直します」と明るく答えた。
紳士は、「計画案を修正させて頂きますのに、お申込の書類を頂戴できませんでしょうか。会社がうるさく申しますので」と、『調査企画依頼書』を見せた。
費用は70万円。後日振り込めばいいと言う。老人は、「A社の時にはいくらやったかいなぁ? もぅ少し安かったように思うが」とは思った。しかし「勿論実際にお建てになる時には、この70万を内金にさせて頂きますので、無駄にはなりません」と言う紳士の言葉を受け、その場でサインした。妻は「子供に相談せんでもよろしいんか?」と言うが、「70万程度の出費で、子供に相談する事もあるまい。もっと具体的になってからでも遅ぅはないがな」と突っぱねた。
(続く)
|