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【1月16日昼下がり】
一週間後の1月16日、また同じふたりが来た。今度は家政婦が居る時間だったので、お茶とお茶菓子でもてなした。お茶菓子は、家政婦にわざわざ買いに行かせた。錫の茶托に乗せた湯呑をテーブルに置くときカチャカチャ音を立て、「どうぞ」の一言も言わない。家政婦が随分ぶっきらぼうにするので、少し腹が立った。「愛想の悪いおばはんで、すんまへんなぁ」
見せてくれた計画は、当初と同じ5階建のマンションで、4階まではワンルーム、5階が自分達の住まいだという。試算表もあった。家賃保証の30年を超えて、40年目まで揃っている。老人が見たのは、最終行の「キャッシュフロー」だった。毎年150万円程度しかない。ちょっと少ないなとは思ったが、しかし僅かでも残っていけばいいかと楽観した。
紳士が、住宅金融公庫と話をつけてくれたと言う。公庫なら固定金利だし、間違いないだろう。「いやぁ苦労致しました。金融公庫を説得するのは大変だったんですよ。勿論私が直接交渉いたしました。しかしねぇ、公庫が融資してくれますのも、わが社だからですよ。他社だったらこんな訳には行きません。わが社はねぇ、公庫に格別の信用がありますからねぇ」
老人は本当にラッキーだと思った。大阪の賃貸業界を押えている大企業が、自分のために公庫と交渉してくれ、しかも30年も家賃保証してくれる。試算表では、保証が切れてからもキャッシュフローが計上されている。これなら少々の借金をしても、大丈夫だ。これで安心できる。
建築工事費は5億という。「ちょっと高いかも知れん」と思ったが、「自己資金はご不要です。工事費の殆どは公庫が融資してくれる手筈ですし、足らず分については、私どもの系列会社が融資させていただきます」というし、第一家賃保証してくれるのだから、確実に返済できる。少々借金しても、返せるのならいいではないか。「5億も出すんやったら、外側はタイル貼りやろな」と精一杯の言葉を吐いてみた。紳士は「いやぁ、厳しい事を仰る」と顔をしかめたが、了承させた。「商売の事はまだまだ現役でっせぇ。年寄やと思うて舐めたらあきまへんでぇ」と、老人は悦に入った。
「本来なら、今日この時点でご契約いただくのですが、今は支社長が海外出張しておりまして、私の責任で調整できる幅がございます。あと2・3日で実施設計が完成いたしますので、ご契約はそのときで結構です」と、また老人を特別扱いしてくれた。
「さよか。一応、長男にも見せときたいけど、3日もあったら大丈夫や」
(続く)
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