奥様。 設計図書に記載していた階段室のブラケット照明が高価だと仰いますが、貴女はっきりと仰ったんですよ、「私、安物は嫌なの」って。設計図書の器具は、上代で3万円程度のもので、アンバランスなほど高価なものでは決してありません。それを、何を思われたか「贅沢ね」って仰って。
そこまでは理解して差し上げましょう。も少し安価なものを何点かお勧めしましたが、「わからないわ」の一点張りで、全く決めようとはなさらない。現場の進捗に影響が出始めたので、早くお選びいただきたいと、ショウルームにご一緒しましたね。でも、決まらなかった。考えられる限りのカタログをお宅にお届けして、見ておいてくださいとお願いしましたが、「見たってわからないわ」と開こうともなさらない。もぅ限界だと、監督さんと電気屋さんが、「何とか今日決めてください」ってお願いして、結局ブラケットひとつに、午後2時から晩の11時までお付き合いいたしました。その結果貴女がお選びになった器具は、¥3,400の簡易なもの。奥様のわがままで、監督さんと工務店の営業、電気屋さんの現場担当と営業、そして私どもの担当と私、計6名が、9時間お付き合いいたしましたのよ。
奥様のわがままは、こんなもんじゃありませんでしたね。
玄関ドアのハンドルをお決めになるのに何ヶ月掛かったんでしたっけ。ユニオンのショウルームにご一緒して、図書に記載したハンドルを確認して戴いたら、その時は「素敵ね」と了承しておられたのに、現場で建具屋さんが確認したときに、「ちょっと待って」と来ましたね。それからが随分永かった。「色々見てみたいわ」と仰るから、ユニオン以外にも沢山カタログを用意したら、「カタログだけじゃわからないわ」と仰る。要するに色々なドアを見てみたいという事だったのですね。私どもの事務所にある写真集や書籍だけでは足らず、図書館からもどっさり本を借りてお見せしましたね。でも決まらなくて、ハンドルが取り付いたのは、引渡しの前日でしたっけ。お選びになったハンドルは、設計図書記載のものの半額以下の品物でした。
工事費を安くしようと考えていらっしゃるなら、そう仰らないと困ります。設計事務所も工務店も、高いものを買わせようなどと思っては居ませんし、見積書より安いものに現場変更すれば、その分精算するという事を充分ご説明していたでしょ。
そもそもご主人が奥様とご一緒に私どもの事務所にお越しにになったとき、ご予算は1億2千ということでしたよね。4社の競争入札にしましたけれど、最高額は1億8千、最低額でも1億5千でした。それを、見積明細のチェックとメーカー交渉などで、予算額に納めたんですよ。勿論設計変更は無しですよ。なのに或る日突然、「1億にならないかしら」は・・・無いでしょ。
「セントラルクリーナーを止めるから、見積書の金額の50万円分安くなるわね」に、「出精値引きが20%以上になっていますから、減額は40万円程度ですよ」と、いくら申し上げても理解なさらなかった。他にも色々中止して、それでも見積金額は1億にはなりませんでした。ここで古い友人と称する方が登場して、工務店に更なる値引を迫ったとき、彼は「検査受けしなくていいから、もっと安くできるだろ」って下種な言葉を発しました。
思えばあの時、私は監理をご辞退すべきだったのですね。兎に角1億のご予算にあわせるように設計変更して、それをお渡しして設計報酬だけ頂いていたなら、奥様のわがままさやご主人の不誠実さを見せ付けられる事も無かったのです。
でも私は、監理報酬が欲しかったのですよ。マサカここまで引っ張りまわされるとは思ってもいなかったから。なんだかだ言っても、予定工期の10ヶ月間お付き合いすればいいんだと、タカをくくっていました。でも、その工期が、奥様のわがままで15ヶ月にまで伸びてしまいました。その間、本当に振り回されました。結局私どもの監理は、大安売りした事になってしまいました。工期が延びて、それが現場の責任以外の要因であれば、工務店は当然の如く管理費など経費の増額を申し出るのに、監理者にはなかなかそれが認められないのは、極めて不当です。
ちょうどあの頃、建築士事務所のインフォームドコンセントが話題になっており、なんとしても奥様にご納得いただかなければならないと、そればかり考えておりました。パースや部分模型や見本品や、思いつく手段を使い尽くしてもなお、奥様は「わからないわ」の一点張り。
反省しましたよ。実のところ、奥様は相当頭が悪いんですね。でも奥様の頭の悪さになかなか気付かなかった私は、もっと頭が悪いのかもしれませんね。
もぅひとつ反省しました。設計や監理の委託業務契約約款は、偉い先生方が考えてくださった内容だからと尊重していましたが、あれは・・・大きな力のある事務所が行なう大規模建物しか想定していないのです。少なくとも住宅には、とても使えるものではありません。