2010年11月29日 17:44 -CATEGORY: 建築士事務所の護身術
設計監理でメシを食っている建築士事務所にとって、長い長い極寒の時代が続いています。
唯でさえ建築工事が減少している中、住宅の殆どはハウ スメーカーが関与し、オフィスやマンションはと言えば、激安の報酬が提示され、これを飲まなきゃ仕事にならない。飲んだとしても構造や設備などの外注費も 出てこない。設備設計を業者さんに頼んだら、予想以上に高い見積が入り、その業者さんが受注できない。じゃぁ、書いてもらった設備図面も使えない・・・?
仕事は少ないし、あったらあったでこれまでとは比較にならない安い報酬で、これまでと同じ業務を要求される。しかも、それでもと頑張った仕事に対して思わぬところからクレームがつき、挙句の果ては設計ミスや監理ミスだと訴えられる、或いは監理報酬が貰えない。
こんな事態を受けて、事務所を閉鎖したり、或いは名義だけは残存しているものの、実態としては休業状態と言う事務所も珍しくはありません。
兎に角生きてさえ居ればなんとかなるさと、ひたすら頑張りつづけることにも限りがあります。スタッフをやめさせて外注にし、事務所規模を縮小し、自分の給与を下げ、飲み会は減らしゴルフを止め・・・。
経費削減は重要です。真剣に取り組みましょう。でもその傍らで、ちょっと違った護身術も考えてみようと思いました。
この文章は、筆者がかねてから実行している事、実行しつつあること、そして実行しなければならない課題としていることを、自戒の念を込めて語るものです。 中には、単一の事務所ではいかんともしがたい事柄も含まれています。共感を抱いてくださる方々、チームを組んで事に当たりませんか。
ちなみに筆者は住宅設計を主体に設計監理する、所謂『意匠屋』で、顧客は全て『イチゲンサン』です。
2010年11月29日 17:43 -CATEGORY: 建築士事務所の護身術
ただ単にダンピングすることは、もぅやめましょう。
ひとつのプロジェクトに設計事務所が数社名乗りをあげたとしたら、仕事を獲得するためには多少 の値引はやむを得ません。が、常識の範囲を超えて低い報酬しか貰えない場合、そのことを合理的に説明出来ますか? 設計したくて仕方が無い、設計できるの なら報酬は二の次と、まるでマスターベイションに夢中の若者の様に対応していては、あまりに情けないですよねぇ。
告示1206号はさておいて も、例えばかつては500万程度の報酬が見込めた仕事なのに、今は300万程度しかもらえない。それなら、それに応じた仕事の内容を考えなきゃいけませ ん。500万のつもりが450万なら、業務内容とは無関係に、単なる『値引』で対応してもいいでしょう。しかし、300万なら、『ここ』までしか出来ない という『ここ』を明らかにしないと、タマッタモンじゃありません。でも実態はと言えば、「こんなに安い設計料で、これだけやってるんだから感謝してもらわ ないと」とか「この監理料じゃそんなに現場に行ってられない」と、自分勝手に業務内容を決めている。『ここ』までですよって、クライアントに納得させてい ないから、時としてクライアントからクレームが付きます。曰く「この先生は、ちっとも現場に来てくれない」とか「うちの設計図面って、ちょっと少なすぎ る!」とか。
もっとナイーブで太平楽な事務所は、設計報酬が大幅に減額されているにも関わらず、これまでと変わらず十二分な設計図書を整備して しまう。或いはロクな監理報酬も支払われないのに、キチンと貰えるのと同じ責任を課されてしまう。否、自ら責任を負ってしまう。これはもぅ、マゾですよ。
『ここ』について、その報酬で何が出来て何が出来ないのか、クライアントにキッチリ伝えなければなりません。そしてそのことを、受注前から明確にし、報酬見積に記載し、委託契約書にも明記して、何度も何度もクライアントに確認しておくことが大切です。
【業務としてサービスできる内容を具体的項目に】
設計監理業務を消費者に説明することは極めて困難です。とりわけ、『ここ』を明確にすることを念頭において我々の業務を説明し、それぞれに報酬を対応させ ることは至難の業です。が、それでも各事務所に応じた形で分類し、説明し、どの業務を依頼して、どの業務については依頼しないかを、消費者が選択できるよ うにしない限り、
「タダ働き」の悲哀すら回避できません。しかし逆説的に云えば、業務内容を具体的に明らかにすることによって、取捨選択の過程を通じて消費者自身も考えるようになり、適切な報酬を導ける糸口が期待できるかもしれません。
告示やNF書式は、建築士事務所の業務を多少具体化しています。しかしこれらは結果主義であって、設計業務については成果図書で、監理業務については施工 図検討や現場の検査などに主眼が置かれています。オフィスやマンションの場合は、クライアント側に割り切って判断できる体制があるケースが殆どですから、 業務の内容を成果で判断できる可能性があります。しかし住宅の場合は、設計図書というカタチになるまでの過程が業務の多くを占める場合もあります。監理に ついては、ソコソコ纏まった規模の現場であったり、或いは一定レベル以上の請負者の場合には適用できても、住宅を請負ってくれる所謂『マチバ』の場合、施 工図なんぞとんでもない話で、定例会議すらまともに開催できない、そんな状況での監理は、NF書式や告示とは大きく相違した業務内容にならざるを得ないの です。(もっとも、ソコソコの規模の現場と『マチバ』の現場、どちらが多いかといえば明らかに『マチバ』だし、一定レベル以上と一定レベル以下の請負者、 どちらが多いかといえば明らかに『一定レベル以下の請負者』です。だから、住宅の設計監理が、決して『特異』なのではなく、これまで建築家協会や建築士 会、事務所協会などで活動してきた方々が、たまたま住宅で食っている事務所ではなかっただけのことなのでしょう。)
これらを考え合わせると、 イッチョウ頑張って、住宅及びこれに類する設計監理に注目するカタチで、業務内容を明らかにする必要があります。色々な事務所が、日常的に行なっている業 務項目を明らかにし、その中で、各事務所が提供できる業務を選択して、それぞれの項目に対して費用の目安を示す・・・といった作業が必要なのです。そうす れば、各事務所単位では大きな負担をすることなくサービス内容を明らかにすることが可能になります。
【サービスを消費者が選択できるように】
ごく一部の悪質な消費者を除けば、10万円で100万円のサービスを要求することはありません。大切なことは、建築士事務所が提供できるサービスがどのよ うな内容で、それぞれのサービスにはどれ位の費用が必要であり、それを依頼者である消費者が選択できるようにすることです。
特に住宅の場合、充 分な設計をしようと思えば、告示並みの報酬を貰ってもいい加減です。ところが零細事務所では、例えば2000万円程度の建築工事費に対して設計監理報酬が 数十万にしかならないこともあります。にも関わらず、建築主は、「どんな風になるのか見せて欲しい」とか「言葉で説明されてもわかんない」と、展開図やス ケッチパース、果てには各室の室内パースを要求します。鼻歌交じりでチョイチョイと対応できる程度なら問題ないかもしれませんが、これが度重なることもあ るので、注意しなければなりません。
特に、『売建』と呼ばれる自由設計の建売住宅を設計する場合は要注意です。事業主や設計者は、設計するのは 間取りと屋根形状程度だと双方ともに理解していますが、消費者はそんなこと知りません。「この先生に設計してもらいますよ」などと紹介を受けた日には、 「万全の設計をして貰えるんだ」と決めて掛かっています。書面による委託契約をしていようがしていまいがお構い無しです。
仮に50万の報酬だと したら、我々にとっては「50万しか貰えない」のに、クライアントにとっては「50万もかかる」。そんな場合、例えば住宅金融公庫の融資が受けられること だけを目的として業務を受注しているという内容を明らかにしておかなければ、お互いに不幸になります。
売建でなくとも報酬額が相当に低い場合 は、例えば「材木検査はしない」とか「照明器具の選定はご自分で」と言う風に、事細かに取り決めることが有効な場合もあります。そして取り決めた報酬と業 務内容に含まれていないことであれば、それをキッチリと告げ、追加業務として合意した後に行なうようにしましょう。
【インフォームドコンセントを考える】
設計説明(インフォームドコンセント)についても同様のことが言えます。
事務所協会が策定したインフォームドコンセントの指針は、これは充分な報酬が支払われる場合に適用される指針であり、告示1206号の半分にも満たない報 酬の場合などを全く想定されていない・・・と、私は考えています。設計者は、工事予算を念頭において設計しています。その念頭においている事柄を、事細か に全て説明していたのでは、下手をすれば説明だけで報酬の半分を費やさなければなりません。だって、住宅設計をご依頼くださる方々の中には、空間を全く想 像出来ない方もいらっしゃるのですから。
消費者も建築士事務所も、心は相当にすさんでいます。
報酬額が低い場合のインフォームドコンセントは、例えば一般図で表現できる範囲に留めるなどの工夫を講じなければなりません。
次回も引き続き、設計監理報酬の安さから身を守る護身術を考えます。
2010年11月29日 17:42 -CATEGORY: 建築士事務所の護身術
設計は、直接的には設計図書を作成することを最終成果としていますが、そこに至るもろもろの過程も報酬に含まれています。妥当な理由もなく、いくつもの計 画案を提供しなければならない場合や、多数の関係者の意見を纏めなければならない場合など、とても常識的な報酬で対応できるものではありません。
そこで考えたいのは、基本計画と設計、そして監理を分離することです。かつての家協会の料率や告示1206号などは、あくまで標準的な場合を想定しているのであって、例えば筆者が経験した『基本計画だけで2年を要した住宅』などは、めちゃくちゃな想定外です。
建築主の中には、いくつかのプランをカタログ的に提示させ、その中から選びたいという潜在的な欲望を持っている人があります。ハウジングメーカーなどは、 建物を売ることを商売にしていて、設計を売ることが本旨ではありませんから、安易に、色々なプランを提示します。この様な対応を誰かから聴いたり、或いは 経験したことがある建築主は、これが一般的だと思っています。悪気は無いとは思うのですが、しかし、設計を本旨とする建築家には対応できるものではありま せん。クライアントのニーズを反映させるべく懸命に考えたプランを提示していることを充分説明しましょう。
それでも、いろいろな計画案の提示を 余儀なくされることがあります。(そうしないと納得しないクライアントも、確かに居ますよねぇ)。この様なケースの場合、設計報酬の取り決めを基本計画確 定まで待つことも方策です。勿論それまで無報酬ではできませんから、なんらかのシステムを作って、『ただ働き』を避ける工夫を考えないと。
先に書いた『基本計画だけで2年を要した住宅』などは、常雇かと思うような状態でした。1番最初に提示した計画案は、最初のヒアリングから2ヶ月程度掛 け、模型も作成し、充分に説明して「これで行って下さい」といわれたので、設計監理報酬を取り決め、構造との打ち合わせを開始した途端、「風水的に悪いら しい」の一言で頓挫したのです。それからは、正しく悪夢でした。風水だか四柱推命だか知らないけれど、クライアントがいろいろな先生に相談するものですか ら、条件がころころ変化して、その都度実施設計の途中で中断を余儀なくされる。設計料を戴かなきゃぁと自分を叱咤激励するものの、精神的には大変しんどい 経験でした。結局は、最後の先生(風水に明るいご夫人ではあるが、決してこれで飯を食っている商売人ではなく、普通の主婦)に逢いに東京までお供し、やっ ちゃいけない事を聴き、計画案がようやくまとまったのです。後から思えば、
①「風水的に悪いらしい」の「らしい」に、もっと注目しておけば良かったと悔やんでい ます。本人が判断せず、聞きかじりの風水でこちらを翻弄していることに気づかなかっ たことは大失態でした。
②二度目の「実施設計中断」の時点で、精算を要求すべきでした。この仕事、住宅として は比較的高額の報酬でしたから、欲が絡んで精算を言い出せなかった事が、二つ目の大 失態です。
③自分では何も判断しない(出来ない・・・かも?)クライアントであることに気づきなが ら、「先生(私のこと)をご信頼していますから」の甘言に惑わ され、そのまんま監理 にまで突入してしまったことが第三の失態。この現場は、当初予定工期10ヶ月に対し、 実際には15ヶ月を要しました。
この例の報酬は、安くはありません。が、結果的には恐ろしく安いものになりました。
多くの場合、最初にクライアントに出会ったとき若しくはその直後くらいに、既に報酬額の目安を提示しています。勿論具体的な金額ではなくて、工事予算の 何%と言う風に多少流動的ではありましょうが、それでも当初8%と言っていたものを後から15%とは言いづらいものがあります。
極めて基本的な 話ではありますが、当初提示する報酬には、幅を持たせておきましょう。決して金額を特定せず、「一概には言えませんが、10~12%程度と思っていただい たらどうでしょう」という風に。できれば自社のHPなどで、これを明示しておきます。筆者の場合、HPに8~15%と表示しています。そうすれば、例えば 8%で契約すれば、「一番安い率にして下さってるんですね」と、嫌味かも知れないけれど感謝の言葉が聞けたりします。
2010年11月29日 17:41 -CATEGORY: 建築士事務所の護身術
先に述べたように、告示1206号や一般的な報酬料率は標準的な場合を想定しています。しかし、昨今の建築事情は、なかなか標準的にとはいきません。例え ば工事を受注した請負者が、設計監理者が想定しているレベルを相当下回る技術力しか持たない場合など、監理期間中の作業量や神経疲労は凄まじいものです。 しかし、クライアントにそのことを説明したとしても「先生に監理していただいたら大丈夫なんでしょ?」とか「厳しく監理してくださいね」と軽く云われてし まうのが落ちで、最悪の場合には、「この先生、別の業者と出来ているのでは?」等と、痛くも無い腹を探られかねません。
請負者のレベルが低い場 合の監理者の悲惨さは、筆舌に尽くしがたいものがあります。とりわけ住宅の場合、図面を読み取れない業者が現場に乗り込んでくることすらあります。この様 な場合は別格としても、請負者の能力によって、監理の業務量が大きく左右されることは確かです。
このような悲惨さから身を守る方策として、当初 に設計監理を一貫契約するのではなく、設計と監理を分離して契約する方法があります。分離契約することによって、それでも監理報酬を変更することには無理 があるかもしれませんが、委託契約に記載する業務内容を調整することは少なくとも可能です。いざと言うとき、建物の出来栄えが、監理者の業務不良や能力不 足によるものではなく、請負者の能力に起因するものであると言うことを、キッチリと示すことが出来るような内容に調整できれば、監理者の不毛の努力は多少 なりと軽減できるはずです。
具体的には、請負者の能力が低い場合、通常の場合に増して、書面による指示・連絡などに努め、請負者に対し て発行すると同時にクライアントに対しても発行しておきます。これを繰り返すことで、クライアントに、監理者が適切に監理を行なっていることを、しつこく しつこく伝えます。
勿論、請負者の能力の問題から、監理報酬の増額を申し出ることもひとつでしょう。しかし、設計を受注する時点で、監理報酬額 も提示しているでしょうから、これが受け入れられる公算は非常に低い。能力の低い請負者が受注する事になった背景には、少なからずクライアント側の事情が 作用しているでしょうから、この事によって監理業務が増大することは、誠実に説明すれば理解を得られる可能性はありますが、それなら、監理報酬を増額する 代わりに、専門的な知識を要しない項目について、クライアントが自ら監理する方法を提案して、少しでも監理業務量を適正に保つ様にします。例えば構造や耐 火性能など安全性に関わることは監理者が監理することが必要ですが、内外装材の選定や色彩計画などクライアントが自力で決定出来る項目は多数あります。
これらは、監理業務の内容を細かにリストアップすれば見えてくる事でしょう。
筆者の例では、木造在来工法住宅で、上棟まではスムーズに進捗したものの、いざ軸組検査してみると、手直し項目がずらっと並ぶ状態で、再検査たるやナント 5回行なったのであります。この場合の再検査に要した費用を、クライアントが負担すべきかどうかは判断が分かれるところでしょう。しかし、監理者が一方的 に泣くというのもおかしな話です。
これまでは、クライアントの請負者に対する不信感を煽るような事になってはいけないと、士法18条による報告 を控えていました。しかしそれによって、監理者に対する不信感が生じたら、元も子もありません。再検査はせいぜい2回に留め、それでも改善が見られない場 合はクライアントに報告し、費用を請求するようにしましょう。その費用分、クライアントが請負者から請求するなどの助言を添えて。
設計と監理を分離契約することで、細かい話ですが、貼付する印紙の額も下がりますから、これも美味しい話ではあります。
2010年11月29日 17:41 -CATEGORY: 建築士事務所の護身術
クライアントと面談して打合せするのは、計画や設計内容の観念的な説明を主とし、詳細な要望やこれに対する対応については出来るだけメールを活用します。
最近は、殆どのクライアントがメールアドレスを持っておられます。持ってはいても滅多に使わないと仰るケースは少なくはありませんが、強引にメールを送り ます。メールを送信し、その後で、「メールをお送りしておりますので、ご覧下さい」とFAXします。大変馬鹿げたことの様に思われますが、これを数回繰り 返せば、クライアントは定期的にメールチェックするようになり、こちらからFAXを送るのが遅れたりすると、その前にReが届くようになります。
ヒアリングアイテムとしてメイルを使っておくと、即、打合せ記録になることは勿論ですが、受信BOXに記録が並ぶことで、「こんなに打合せを重ねているんだぁ」って、クライアントが感動してくれます。
考えていることや質問への回答を文章にすることは、時には大変手間ではあります。が、クライアントが抱く疑問は、往々にしてよく似ていますから、Aさんに 送った回答を、少し手を加えるだけでBさんへの回答に流用できたりしますから、ある程度繰り返せば、左程の負担ではなくなります。そして「私の思いつきの 質問に、こんなに丁寧に答えてくださって感激しました」なぁんて言って貰えたりします。
次回は、設計監理報酬が貰えないという悲惨さから身を守る護身術を考えます。